仁徳天皇の『民のかまど』エピソードが、プラトンの政治哲学を超えた件について。

もくじ
民の竈(かまど)のエピソード
仁徳天皇が即位して4年目。
高台に登って人々が暮らしている村を見回すと、ある異変に気がつきました。
どの家からも、炊事用のかまどの煙が立ち上っていないのです。
仁徳天皇はこれを見て、
「かまどの煙が立ち上っていないのは、民が貧しい生活をしているからではないか?」
「民の生活の負担にならないよう、今後3年は税をとらないように!」
と求めました。
今もそうですが、天皇の暮らしは民の税で支えられています。
3年間税が無いということは、天皇の収入もなくなるということ。
仁徳天皇は、衣も新調せずボロを身にまとい、粗末な食べ物を食べて、寝床の雨漏りも直せず、星が天井から覗くような環境で生活をすることになったのです。
そして3年後、民のかまどから煙が立ち上がるのを見て、仁徳天皇は喜んでこの様子を歌にしました。
高き屋に登りて見れば煙立つ民のかまどはにぎはひにけり
仁徳天皇 御製
晴れた青空のもと、高台に登ると清々しい気分がしますね。民のかまどから煙が立ち上がるのを見たとき、仁徳天皇もそんな清々しいく晴れやかな気持ちになったのだと想像できます。
この煙を見て仁徳天皇は、「私自身が貧しくなろうとも、国民が裕福になれば私自身が裕福になったのと同じことだ」と部下に言ったといいます。
しかし、ここでめでたし、めでたし…といかないのがこのエピソードのすごいところ。
ここからがこのエピソードの本番になります。
仁徳天皇は、ここからさらに3年間の税を廃止します。民の財政に余裕が出てきたところを、税の負担でまた貧困に戻したくはなかったのでしょう。
そして計6年間の税の廃止が終わり、民は安定して余裕のある生活を送ることができるようになったのです。
しかし6年間の無税=無収入で、仁徳天皇の住む宮殿はボロボロに。
やっと宮殿の修理を申し付けられたところ、仁徳天皇の徳政に感激した民が競い合って自ら進んで宮殿の修理を行い、たちまち修理は完了してしまったということです。
この話は、聖帝と言われる仁徳天皇の代表的なエピソードになります。
「国民は大御宝である」という信念は、皇室に代々受け継がれてきた
最初の3年間の税の廃止で、民の生活に余裕が出てきました。
民のかまどの煙を見ての、仁徳天皇と部下との会話です。
仁徳天皇「私は裕福になったのだ。」
部下「租税が止まり収入が無くなったことで、あなたはボロを着て、食事も粗末になり、宮殿も雨漏りする始末。これのどこが裕福なのですか?」
仁徳天皇「代々の天皇は、民の一人でも飢え凍えていたら自分のことのように考え、自分を責めたものだ。国民が貧しいということは、私も貧しいということ。国民が今富めるのであれば、私も今富んでいるのだ。いまだかつて、民が富んで、王が貧しいなんてことはないだろう?」
これが天皇が民を大御宝と呼ばれるゆえんなのです。
そしてこのエピソードは、代々の天皇が学んで心に留めてきたものなのです。
仁徳天皇は、「私の前の天皇も民を大御宝と考えていた」という発言をしています。
そしてその心を継いだ仁徳天皇の志を、以降の天皇も受け継いでいるのです。
仁徳天皇はプラトンの主張する統治の最高の形を実現した
この話を聞いて思い浮かべるのは、古代ギリシャのプラトンが唱えた哲人政治のことです。
哲人政治とは
強力な指導力を持った為政者が善政を敷くとは限らず、僭主が自らの欲望を満たすために統治者の地位を利用することも考えられる。それ故、哲学を学んだものに権力を与えることによって、私心無き統治を行わせようとプラトンは考えた。
引用:[https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%93%B2%E4%BA%BA%E6%94%BF%E6%B2%BB:title]
つまり哲人政治とは、権力の暴走を抑えて適切に行使されるように、私利私欲にとらわれない哲人にトップを任せるということです。
プラトンは哲人政治を実現するために、アルカメディアという学校を作ったり、時の権力者に哲人教育を施しましたが、どれも失敗に終わりました。
今回ご紹介した仁徳天皇の「民のかまど」のエピソードは、プラトンの理想とした統治形態を実現したものだといえます。
プラトンの哲人政治論は民の君主に対する思いについての言及に乏しいのですが、仁徳天皇のエピソードは民の天皇に対する恩返しについての言及があるのです。
哲人がトップダウンで政治をしても、その統治には限界があります。
そこに住んでいる民のひとりひとりが自分勝手に欲望を追求していたら、社会の治安や民度は安定しませんよね。
トップの徳に民が心を動かされ、民が自ずから自分を治めていく。
これが代々より受け継がれてきた、天皇家の「しらす(知らす)」という統治方法なのです。
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